※漢字名で書いています。
U「優(ユウ)」とF「江符(エフ)」とH「瑛智(エイチ)」
にぎやかな街はいい。
明かりが灯り人々が楽しげに夜を過ごすのは豊な証拠だ。
優の薬も順調に売れて 久しぶりに良い宿もとれ、3人は安堵の表情を浮かべた。
夕食後、瑛智の入れた熱い茶を飲みまったりとした空気が流れている。
「優さん、お茶の湯気にゴーグルくゆらせて磨くのやめてくださいよ!お茶に埃はいっちゃいます」
「あぁ、すまないお茶の湯気に良い成分でも含まれていそうに具合がよかったのでつい…」
「しかし熱いお茶だな…俺猫舌だからもうちょっとぬるいのが好…いやいや瑛智の入れた茶はぁうまいよ!
そうだこれ飲んだら…優!ちょっと酒を飲みにいかないか?」
「江符と酒だと…お前は自分の行いを覚えて言っているのか」
「優だって好きじゃん…せっかく懐に余裕もあるのに」
「虎になった江符さん担いでくるのが嫌なんですって。本物の虎と間違われて猟友会の人間に撃たれそうになったこともありましたよねこの前…」
「あーわかりましたよわかりました!良い子ははやくおねんねすればいいだろ!はいはい寝た寝た!寝る子は育つ」
カンカンと煙管の灰を皿に打ち付け江符はさっさと部屋に戻っていった。
それを合図に残りの2人も各々の部屋へ戻る
「酒をやめろ?だってー?知らない土地に来たらまずそこの水、すなわち酒を飲むのが礼儀ってもんでしょうーがー」
部屋に戻るフリをした江符はそのまま宿の出口をすりぬけていた。
やはり賑やかな街はいい。夜の温かみが違う。さてどの店にはいろうか。
懐のありがたい重みを胸に街角に溶けて行った。
一方優は部屋で今日売れた薬の集計をしていた。
売れた薬によってこの土地がどんな病に侵されているのかうっすら透けて見えることがある。
(うーん…滋養強壮の薬が多く出たな…一見元気そうな街に見えたが倦怠感を抱えた人々が多いのか…)
見た目よりも穏やかな街ではなさそうだ。ゆっくり滞在する必要はないだろう。
必要な薬品を買い足して明日にはここを出た方がよさそうだ。
廊下の流し台から水の流れる音とかちゃかちゃと陶器のこすれる良い音がする。
瑛智が茶道具を手入れしているのだろう。まぁ早起きさせても問題なさそうだから
明日の朝出発を告げても大丈夫そうだ。
江符は…二日酔いかもしれぬがむりやりひっぱっていけばどうにかなるだろう。
体力の回復は早い男だ。
その頃、江符は適当に街をぶらつき人の出入りの多そうな店に入っていた。
路地裏で立ち話をする輩が割と多い街だな、ぶらついて思ったことはそんなことだ。
(こりゃ優に言って早めにこの街切り上げたほうがよさげだな。まぁ…酒は頂くけども)
店の者に聞いて地酒を持ってこさせる。
「はい、旦那、おまたせいたしやした」
「おー、ありがたいねぇ…っくぅー!うまい!」
うまい、旨いのだ。酒が旨い。
やや癖のある味だがアルコール度は強く喉越しは良い。
気分良く煙管に火を付けるとまた格別な味がする。
煙管をくわえる姿を珍しそうに町娘が見つめているのに気が付いた。
ふーっと細い煙を吐き出し軽く手を振るとぽっと頬を赤らめて
去っていった。
「あぁーいいねぇ」
すこぶる気分が良い。
他の客からも注ぎ注がれ賑やかな店は更に賑やかになっていた。
しかしまわるのも早い。うーん、酒だけ購入して宿で飲めばよかったか…
目の前の世界がぐわりとまがり始めた。
(おいおい、俺ァ確かに強くはねぇが…こりゃやべぇかもな)
まずい。かすんだ手元がむくむくと獣の手になっていくのがわかった。
腕に虎模様が現れると同時に意識がゆっくりと離れて行く。
遠くの方でかすかに人々が騒ぐ声を聞き聴覚がぷつりと途切れた。
「おい!この兄さんもののけだ!獣の人だぞ!」
「ちょうどいい村長に伝えろ!明日は満月だ、ちょうどいいタイミングだこれは天からの送りものにちがいねぇ」
「おい主人よ!縄じゃ縄をもって来い」
店の周りには人だかりができていた。
江符が飲んでいた席には煙管が一本、転がっていた。